カツモクせよ!シリーズH
鈴木秀美 指揮:オーケストラ・リベラ・クラシカ
… by K.I.

画像:http://www.hdm-olc.com/より引用
18世紀後半以降(ベートーベン以降)のクラシック音楽は一気に成熟の一途をたどり、楽器はより没個性的になり大ホール向きに改造された結果、表現はダイナミックになりました。でも実際に店頭でCDを探す場合、普通はメジャーな作曲家のメジャーな曲が棚の多くを占めています。指揮者や演奏家による表現の違いを楽しむという鑑賞。いわゆる『クラシック』と呼ばれている音楽のうち、世に出回っている演奏の大半は、18世紀後半〜19世紀あたりの、非常に狭い範囲の音楽を取り上げているものです。
20世紀になると、無調性という、長調でも短調でもない、素人の私が聴くとなんとも不思議な、ひたすら管弦楽器の音を単発的に聞かされているという印象の音楽が増えて、現代の管弦楽曲の多くは18世紀あたりのクラシック音楽とくらべるとかなり印象が異なる音楽になりました。
もちろん20世紀以降にも面白い管弦楽、独奏曲はありますが、その一部例外以外は私にとっては少しとっつきにくい音楽です。このあたりは生理的な感触の話しなので、説明が難しい。シベリウス(1865-1957)の音楽はとても刺激的で、私は好きですが。
そうかといって、私は20世紀以降の管弦楽曲が嫌いなのではありません。たまに聴いていますから。無調性の、不協和音(ピアノの複数の鍵盤を素人が適当に叩くと、生理的にいや〜な感じの音がしますが、そんな和音です)が連続するような特殊な音楽は、説明が難しい。
音楽理論的には、現代の無調性管弦楽もプロの評論の対象にはなるのでしょうが、私は素人なので、作曲技法などはどうでもいいこと。聴いてみて面白いか、気持ち良いかが基準です。
では18世紀前半以前の音楽はどうでしょう。
今まで私はたびたびクラシックの中でも古楽、バロック音楽と言われる演奏を取り上げてきました。
ですが、クラシック関係の情報に疎い素人の私でさえ、昔はバロック以前の音楽というのはベートーベン以降の音楽よりも内容が稚拙で退屈なものであるかのようなイメージを漠然と抱いていました。20世紀以降の管弦楽に抱いていた先入観と、ちょうど同じでした。聴いたこともないのに、です。私が初めてクラシック音楽を聴こうかと思い立ったとき、18世紀後半〜19世紀という非常に狭い範囲の中から好きな曲を探そうとしていたのは、単にメジャー路線ものの広告に踊らされていただけなのかもしれません。また、クラシックファン以外にとってベートーベン以前といえばバッハかビバルディくらいしか一般的でないという日本の事情の影響を受けていたかもしれません。
ところがあることがきっかけでそれよりも古い時代の音楽を聴いてみると、これがとても面白い。曲が簡素なだけに、個性的な楽器の音も人の声もじっくりと味わえる。旋律はしっとりとして美しいものが多く、しかも、録音は大抵、響きの良いホールで行われており、まさに究極のアコースティック。埋もれている曲の数は恐らく無尽蔵。だから、古楽、バロック時代の音楽は私にとってはオーディオ鑑賞において最強なのです。
純・オーディオで古楽を静かに聴いていると、音楽としては後の時代のそれよりも魅力があるのではないかとさえ思えてきます。最近日本でも古楽のCDがこうして探せるということの背景には、今までは現代楽器しか選択肢がなかった日本の演奏家たちが欧州の古楽演奏に触れる機会が徐々に増えた結果、古楽や古楽器の価値を発見したという状況があるのではないかと思いますが、やってみて面白かった、気に入った、という単純で強い動機が根本にあるはずです。
王手!
このCDですが、指揮は鈴木秀美。バロック・チェロの奏者として活躍してきた人です。演奏はオーケストラ・リベラ・クラシカ(18人編成)。バッハ・コレギウム・ジャパンの奏者も含まれているとか。
純・オーディオで聴いた人は皆きっと、音と演奏の鮮烈さ、メリハリの効いた躍動感に驚くでしょう。そして、古い時代の仕様の楽器による演奏がこれほどまでに瑞々しく聴こえること、弦楽器の高域がどこまでも澄んで美しいこと、更にこれがライブ録音であることに驚くでしょう。ハイドンやモーツァルトがこんなに面白く軽快に聴こえるとは想像もできませんでした。特にハイドンなどは認識を大いに改めなければならないようです。それほど、鈴木秀美の指揮、オーケストラの演奏は衝撃です。
今更クラシックのしかも古楽、バロックなど、ましてハイドンなど古典派だ、終わってしまった過去の音楽だと勘違いしている人がもしいたら、このシリーズはまさに、王手。
鈴木秀美はハイドンひとつとっても今まで注目(評価)されなかった時期の曲を取り上げています。モーツァルトの演奏は過去の名演奏を翳ませる勢い。Manzeといい勝負。将来ベートーベンをやる可能性にも鈴木秀美は言及しています。
クラシック好きのオーディオファンとしては、すでに続作が速いペースで発売されているこのシリーズ、ひとつも見逃すわけにはいきません。
過去に聴いたどのCDとも違う、鮮やかで色気のある録音です。古楽器の繊細な音を無理してマイクを接近させて録ったような不自然さが無いのに、解像度は申し分ないし、立体的に再生される楽器群のバランス、定位もいい。ライブ録音を基本としながら普通のCDでここまで鮮度の高い音質を達成するとは・・・。
TDK、恐るべし!〜輸入盤に強力なライバル出現か。(了)