PALETTE / ケイ赤城
… by Ayumi Taguchi
まさにパレット
先に紹介した「NEW SMILES AND TRAVELED MILES」、当時の日本ツアーメンバーと録音した「VIEW POINT」に続く、ケイ赤城2001年リリースのアルバム。
個性的な旋律、複雑で緻密な曲構成、膨大なエネルギーに知性という名の鞍を置いたような演奏はさすがと言うべきか。
このアルバムでは井野信義・村上寛と杉本智和・本田珠也のリズム隊2組の起用、曲によってソロ〜カルテットと編成が幅広いことで、パレットにいろいろな絵の具が散らばっているようにカラフルな雰囲気が楽しめる。ただ難を言えばやや盛り沢山すぎるきらいがあり、通して聴くと1曲1曲の印象が薄まるのが惜しい。
それはさておき、このアルバムを聴いて驚いたことが1つ。
「チャボ(杉本智和)ってこんなに上手かったのか!」
彼の演奏は1999年に別のバンドのライブとCDで聴いて、ありきたりでない面白いベースを弾くとは思ったものの、特に注目しては来なかった。
ところがこの強烈なドライブ感とインタープレイの大胆さは何ごとか。
さあ、ライブだ
さて、ここからはライブについて書いてみたい。
毎年恒例、私にとっても夏の年中行事となったケイ赤城の日本ツアー、2000年までは鈴木良雄(b)村上寛(ds)という顔ぶれだったが、2001年は本作のリズム隊のうち井野・村上のベテラン組を配しての九州上陸となった。
まず気付いたのはケイ赤城のピアノの音色の変化。ガラス、氷、冴え冴えとした冬の空気…透明で硬質なものをイメージさせた前年までの音色から、ずいぶん暖かな音に変わっていた。訊ねると、指を立て気味に弾くよう意識的にタッチを変えたとのこと。
この年は、ツアー初参加それも日程半ばから参加した井野信義がケイ赤城の難解な曲にてこずる様子で特に1st Setで精彩を欠いたこと、ケイ赤城自身、時おり以前のタッチとの間で混乱する節が感じられ、演奏の表面的な出来だけなら前年のほうがよくまとまっていたと言える。
では面白かったのは? これが圧倒的に2001年。
前年の演奏も、もちろん非常に高水準だった。しかしそれは言うなれば“極上の既製品”。感想は「今年も良かったね」で済んでしまったし、翌年の演奏も想像がつく気がしたものだ。
それがこの年の感想は、「この先バンドとしての成熟が進めばきっと面白いことになる。来年が楽しみだ」。
ヒビ割れて美しさは損なわれているが、そのヒビの間から何かが出て来ると予感させる生きた卵。
断っておく。生きた人間が演奏する生きた音楽はどんどん変化するのが自然だと私は思っている。同時に、生きた人間である以上その変化の仕方が一定であろうはずはなく、時に停滞や後退を見せるのも自然なことだと。だから一時的な停滞を以って短絡的に評価しようとは思わない。次のステージが期待できる限りは。真に忌むべきは停滞への安住である。
ちなみにベテラン組による若手組の評。
井野「チャボは(レコーディングの)リハーサルでは無難な演奏だったのに、本番になると怖いもの知らずだ」
村上「俺、来年このツアーにいないかも(笑)」
翌2002年。
スケジュールが載る頃を見計らってケイ赤城の公式サイトをチェックすると、全日程リズム隊は杉本・本田の若手組!
これはもう絶対に面白いことになると期待しつつ聴いた演奏は。
凄かった。
後日、IKKI MUSIC代表の貝塚氏(氏は、ケイ赤城が毎年出演するライブハウスのオーナーでもある)と電話で話したが、二人して「凄かった」と繰り返すだけという始末。
抱いていた期待など赤色巨星の前の砂粒のようなもの。演奏が始まった瞬時に灼き尽くされ、比較の対象にもならない。
この年は北九州・別府・北九州と3日続けて聴き(九州での全日程、制覇してしまった(笑))、3日ともほぼ同じ曲目・曲順だったが、
飽きるどころか3日間、一瞬たりとも目(=耳)が離せなかった。
白熱するエネルギーの塊と化したピアノ、無難に根コードを弾くなんて最初から知らないようなベース、無遠慮に切り込んでいくドラム。三者が鋭く呼応しあい、紛れもなくその瞬間瞬間に音楽を生み出していく。そしてその音楽たるや、煮えたぎるマグマに手を突っ込んで更に輝かしいものをつかみ出したかのよう。エネルギーの奔流に飲み込まれ、だが目を閉じることも逸らすこともできない。それは巨大な抽象画を前に、圧倒され見入ることしかできないのと同じ感覚。
今、これを聴かずして他に何を聴けというのか。
ことに別府では杉本智和のノリが凄く(「今日のチャボ、凄いですねえ!」と言ったらこちらも目を丸くしたケイ赤城から「うん、今日凄いねえ!」と返ってきたが)、当然それに煽られて全体の勢いもひときわで、終演後はしばらく席を立てなかった。
さあ、ライブだ!!
今年2003年のツアーもリズム隊は杉本智和・本田珠也。一体どんな世界を見せてくれるのか期待に胸が躍る。
なお、今年はスケジュールに初めて博多NEW COMBOが加わった。多くの一流アーティスト達に愛される同店での演奏がまた楽しみだ。
あの感覚はCDだけ聴いていたのでは分からない。さあ、ライブハウスに足を運んで、音楽の生まれる瞬間に立ち会おう。(了)
P.S.
6月に新作「A HINT OF YOU」がリリースされているが、この原稿を書いている7月下旬現在、手違いでまだ入手できていない。九州でのライブまであと1ヶ月、ここまで来たらCDを聴かずにライブに臨もうかと思っている。
※1 2003/07/25現在、このアルバムはSACDでも発売されています。購入はココをクリック
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