LUCK OF PIECES / 小林美千代
… by Ayumi Taguchi


画像:http://homepage2.nifty.com/altosax/から引用※1

小林美千代(as)
後藤浩二(p)
加藤雅史(b)
江藤良人(ds)

AT LOVELY

2001年春、名古屋で『T&T』  土岐英史(as,ss)多田誠司(as,ss)米木康志(b)江藤良人(ds)によるセッション  を聴いた折のこと。
ライブ終盤、土岐の「ボクの優秀な生徒を紹介します」という言葉を受けて、アルトサックスを手にした一人の女性が客席を立ち、メンバーに加わった。そこでアルト3管・ピアノレスというユニークな編成で演奏されたのは1曲、確か土岐ファンにはお馴染みのオリジナル曲「OLD FRIEND AND DRY MARTINI」だったと記憶しているが、その1曲だけの演奏で、彼女に注目するには充分だったのである。
その女性の名を小林美千代という。

このとき私が強く興味を引かれたのは、女性らしからぬ太くダークな音色と、実を言うと「土岐英史のコピー」でない点。
それ以前にも土岐の門下生数人の演奏を聴いたことがあるが、彼らの多くが「土岐節」という細いレールを踏み外すまいと足元だけを見つめてこわごわ歩く、「土岐英史の縮小コピー」という印象だった。
確かに、土岐の他の追随を許さない丁寧な音扱いは魅力的で、私もそれに心酔している一人ではあるが、彼に師事したからといって師匠の「コピー」になって何になろう?
小林美千代は違った。
一音一音をおろそかにしない点では土岐のスタイルを受け継ぎつつも、主役は間違いなく彼女自身だ。

早よ知らせんかいっ

演奏活動が主に名古屋周辺に限られているため、その後もジャムセッションで2度、数曲聴くだけの機会しかなかったが、先ごろ別件で彼女からメールが来た中に、ついでのように「3月にCDが出た」とあるではないか。

さて早速(それとも遅ればせながら、か)入手したこのCD、「注目株のリーダー作」であることはもちろんとして、カルテットとしての演奏そのものが上質で、心おきなく楽しめる。
加藤雅史の一見地味だが的確なベースがサウンドの骨格を描き、江藤良人の重くかつ繊細なドラムがそれをふくらませる。この2人が屋台骨をしっかり支える中を、後藤浩二の瀟洒で都会的なピアノが縫い、量感のあるサックスが疾くゆるく吹き抜けていく。

全9曲中、6曲を占めるオリジナル曲がいい。シンプルで耳に残るメロディが美しいし、演奏も伸びやかだ。
1曲目「OVER THE BLUE」ではガーシュインを思わせる素朴で力強いテーマが熱さとスピード感を持って演奏され、バンドとしての完成度の高さで「新人の処女作」というこちらの心配を吹き飛ばしてくれる。
「TIME PASTS TO FAST」は白眉。ここでのサックスの歌心と説得力には、それが人の肉声であるかのような錯覚さえ覚える。ソウルフルなシンガーの歌う、ほろ苦い、大人のための子守唄。

「彼女らしいなあ」

私は、演奏には必ず人柄が出るものだと思っているのだけど(尤も、中には「コイツのどこからこんな美しいモノが出てくるんだ?」というケースもあるらしいが)、このCDの演奏も「彼女らしいなあ」と思ってしまった。
名古屋を訪れる先達との共演に果敢にチャレンジする積極性と、そのくせ「そのバンドを聴きに来たお客さんは怒ってるんじゃないか」と本気で不安がるナイーブさ(私は「ライブに来ておいてハプニングを楽しもうとしない人なんて、もしいたとしても気にする必要ないよ」と答えたものだが)、彼女のそんな両面が演奏に出ていると感じる。
今のところはナイーブさがためらいとなって表れている場面もある。だが小綺麗に体裁を繕おうとせずに今のありのままの演奏をぶつけて来る、その率直さは気持ちが良いし、今後の成長を期待させる点でもある。
借り物の衣装で人気を博した挙げ句、自己の個性を磨く機会を失う愚は、おそらく彼女には無縁だ。

ライナーによると今回はハードなナンバーは外したらしいが、いずれそれらを収めたCDも欲しいものだ。いやその前にライブを聴きに名古屋へ行かねば。そして遠からず九州でも聴けることを楽しみにしている。(了)

※1 2003/07/31現在、このCDは小林美千代さん御本人の公式ホームページ(http://homepage2.nifty.com/altosax/)で注文し、購入することが可能とのことです。
…by 管理人