「村正試作1号」製作記・最終回
… by K.I.

真正・村正試作1号の野望 ●2

村正の敏感体質

村正の、というより正確に言うと、村正とTERAとVRDS50をベースにしたコンビは一体どれくらい敏感な反応を示すのか、そしてそれは村正やシステム全体のチューニング、あるいは私のオーディオ観に、どのような影響をもたらしたのでしょうか。
このことについて話をするときりがないので、村正が『真正・村正試作1号』(以下村正)に変わった時以降の話をひとつします。

ドライバーとホーン、ツイーターのセッティングがようやく一段落したあと、私はある実験してみました。
ドライバーの支えにはこのときカーボンブロックが導入されていました。現在の村正の音質に絶大な影響を与えている大事な部品です。
ドライバーをよく見ると、わずかですが、振動板があるところがリングのような構造になっていて、0、数ミリ盛り上がっていました。そこで、そこが直接ブロックに接触する方法と、少しブロックを削ってリングの盛り上がり部分を避け、面で受ける方法とを比較してみました。
結果は、リングで受ける方法だと高域に鋭さが出るものの歪みが少し乗るのに対して、面で受けると歪みが消えて、やや抑えた密度のある表現になります。

これは決して大袈裟な話ではなく、実際にやってみてかなり驚いた実験でした。
また、ホーンとドライバーの接合部のネジにもある処理をしました。更に、接合部にあったゴム製の緩衝材も、セーム皮に変えました。これらの処理はかなり効果大で、ストレートで素早く、歪みのない、かつ柔らかな表現が可能になりました(軟弱な音という意味ではありません)。
でも、もし村正や他の機器のセッティングが煮詰まっていなかったら、同じことをしても、期待した効果は出なかったはずです。

これは一例ですが、私はこうした実験を通じて、あるひとつの考えを持つに至りました。それは、

「機器の性能を疑う前に、自分のセッティング、チューニングミスを疑え」

という鉄則(自称:K.I.の鉄則)。この考えを身体で実感したことは、私にとって、最大の財産です。

村正の現状

正直に書きます。確かに、メーカーの“優秀な”スピーカーと比較すると、あきらかに素人工作が足(可能性)を引っ張っているところがあります。ユニットの機種の構成も、フォステクスのユニット群をよく知る人であれば、先入観だけで判断して、アンバランスなユニット構成だと言うかもしれません。でも、少しでも“いけてない”既製品だったら、村正の製造原価よりはるかに高価なスピーカーであったとしても、100%は勝てなくても、軽く足元を掬うところまではきています。もっとも、中〜小音量で聴く私の音の好みに従って評価すれば、の話ですけど。

ジャンルによる得意、不得意があるか。ありません。そう聴こえるとすれば、それは私がクラシック中心に聴くので、システム全体のチューニングをクラシック向きにしていることの影響です。

「あるスピーカーがあったとして、そのスピーカーは例えばジャズには向いているけれども、クラシックの再生には向かないのだ、などと安易に決め付けては、そのスピーカーの可能性を殺すことになる。要は、鳴らし方次第、聴き方次第である。」

これも、アートクルーで得た教訓のひとつです。村正にとっては指標となる教訓です。でも案外、オーディオファンの中には、この種の思い込みが激しい、頭の堅い人もいるようです(実際に会ったことがあります。アートクルーのお客さんではありませんが)。村正の写真だけ見て、ジャズにはいいけど、クラシックはいい音では鳴らないはずだ、そう考えてしまうオーディオファンも、いるかもしれません。

真正・村正試作1号の未来と野望

「(素人には)難しいから、やめた方がいいですよ」

初めて単体のユニット(ツイーター)を購入してフルレンジ・スピーカーにつなげてみようかと思っているという話をしたとき、また、コンデンサーを購入してとにかくスピーカーをひとつ作ってみようとしたときに、とある別々の店(もちろんアートクルーではありません)のスタッフから奇しくも言われたこの共通の言葉をきっかけとして誕生した村正の未来とは、何なのでしょう。
それは、スピーカーを自作することの可能性と、手軽さと、オーディオの楽しさ、素晴らしさそのもの、でしょうか。(メーカーが必死でやっている数々の試行錯誤やイタリアのスピーカー・メーカー:ソナス・ファベールのような素晴らしい木工と較べたら、私のしてきたことなど、“手軽”以外の何ものでもありません。)

わたしがこの、恐ろしい可能性を秘めたスピーカーと二人三脚で歩いてきたオーディオ初心者としての道を、一体、ほかのオーディオファンはどのように見るのでしょうか。

私のことを「すでに立派なマニアだ」と言う人もいるでしょう。でも自分ではそういう感覚が全くありません。むしろ、そう言われると心外です。なぜなら、マニアという表現は、一般に、普通ではない、特殊な存在だという意味で使われるからです。
私には長くつきあっているあるひとつの趣味があります。それは道具を使うものなのですが、道具であるがゆえの、避けて通れないふたつの要素があります。それは、

@メーカーが決めた(推奨する)初期設定
A自分で行う初期チューニング

です。
@は労せずして手に入るものですが、そのままでは自分の道具にはなりません。自分の癖に合わせて道具が本来の性能を発揮できるようにするためには、Aの作業が必要です。作業マニュアルはありますが、二種類の道具を組み合わせて実際に実動作を試しつつ、現象(傾向)に対して道具を調整していきます。これによって、自分に有効な一定の『幅』を確定します。
Aだけで実用上はほとんど問題ありませんが、更に精度を高めようと思ったら、Aで得た幅の範囲内で、自分にとって最適だと思われるポイントを探して安定させます。判断基準は、結果が伴うかどうかです。うまくいけば、自分の感覚によくフィットするはずです。

また、一度自分で「これでいい」と思ったチューニングも、怪しいと感じたら、初めから再度行って、誤差や勘違いによるミスを防ぎます。
更に、道具のメーカーを変えたら、Aの作業を初めから行います。
これらの作業は好きだからやるという性質のものではなく、その道具を使うなら皆がやらなくてはいけないことです。常識。なぜなら、やらないことには絶対に結果が出ないからです。せっかく購入した道具の性能を殺すことになってしまいます。

ここまで書けばもうおわかりかと思いますが、オーディオにおけるセッティング、チューニングと、私のその趣味におけるチューニングとは、面白いほど共通するところがあります。アプローチはほとんど同じといってもいいくらいです。
ただ、私はその趣味でのチューニングだったら、多少ブランクがあっても勘と経験がありますから時間さえあれば効率よくやれますが、オーディオでのセッティング、チューニングに関してはどうしたらいいものか、どう考え、判断したらいいものか、全く知りませんでした。私が何度かアートクルーについて好意的に言及したのは、客として店を“よいしょ”して利を得ようとしたからではなく、セッティング、チューニングに関してもしっかりしていると、私なりに判断したから、つまり、私のような初心者にとって頼りになる専門店であると思ったからです。どの分野であっても、『初心者』を大事にしない分野に未来はない、とは私の持論です。

村正に関して私がしてきたことは、一見、もの好きな素人が音質向上一筋にマニアックなことをしてきたように見えるかもしれません。でも、私の中では、知らなかったことをアートクルーでたくさん教えてもらって、あるいは見て聴いて、考え方の基本がやっとわかった、自分の癖が少しわかった、道具(オーディオ機器)がなんなのかについても少しわかった、というのが実感です。ですから私は正真正銘、本物の初心者、素人なのです。多少の皮肉を込めて使われる『マニアック』とは何の関係もありません。

今、村正は3年以上に渡る長い『初期チューニング』の終盤にようやくさしかかったところです。そして私には、村正が密かに抱く妖しい野望のようなものが、少しだけ、見えてきたような気がするのです。その正体が何なのか、私は知りたいと思っています。
ですが、その話は、やがて始まるであろう『村正試作2号製作記(仮題)』に譲ろうと思います。(終)


終わりに

私はこれまで、自分が作ったスピーカーの成果を全て自力でやったことであるかのように独り占めにして自慢話がしたくて、あるいは、スピーカーは自作に限るという主張がしたくてこの連載を続けてきたのではありません。私も村正も、自分の身の程くらいは知っています。

今になって振り返ると、この連載は、世間的な認知度が今だ恐ろしく低いオーディオという趣味の世界(または業界)に対する私なりの(ちょっとだけ毒を混ぜた)激励のメッセージでもあり、これからオーディオに興味を持つであろう未来のオーディオファンに向けての、私なりのメッセージでもありました。
すべてのオーディオファンは、もっと胸を張っていいのです。

この連載をひとまず終えるにあたって、私から、将来この世界の扉を開けるであろう未来のオーディオファンに、ひとこと、気の早い言葉を送りたいと思います。

「ようこそ! 素晴らしいオーディオの世界へ。」

その扉の向こうには、まだ見ぬたくさんの夢のオーディオ機器に囲まれて、Y氏、M氏、もうひとりのY氏のクルーが、あなたを待っていることでしょう。

管理人さんへ: あのひとことがなかったら、この連載は有り得ませんでした。
読者の皆様へ: ありがたいメッセージを頂いた方もいらっしゃいました。内容についてのクレームがあったら、連載は中止していたかもしれません。

みんなまとめて、ありがとうございました。