「村正試作1号」製作記
… by K.I.

村正脱皮編〜
U ハイエンド機器の嫌味と真正・村正試作1号の嫌味 ●1

YBA PASSION △Integre LDT

プリアンプで1台100万円を超える高級品を探すことは簡単です。これだけなら、軽自動車より安い。それで毎日、好きな音楽を自分にとって最高の音色で聴けるのなら、自動車のコスト・パフォーマンスの悪さに比べれば安い買い物です。寿命も、自動車とたいして違わないし。

でも現実にこの種の高級品を使うには、その音質に見合うパワーアンプを探さないことには、投資する意味がない。なぜなら、高級なプリアンプを欲した人は、ほかでは得られないその製品特有の音を気に入ったはずなので、その音を生かしてくれるパワーアンプと組むはず。同じ理由で、安いCDプレイヤーとコンビを組むわけにもいかない。相性の良いCDトランスポートと、コンバーターを探したい。CDプレイヤーにデジタル出力端子が装備されていればプレイヤーをトランスポートとして使い、コンバーターだけを探してもいいんですけど、では、合計では一体いくら・・・?
で、そのシステムで、何年持つ?当然ですが数年後には、今よりもいい音を出す製品が出てくるわけで・・・

この事実こそ、私にとってのハイエンドといわれるオーディオ機器(システム)が持つ、最高の嫌味です。だからわたしは、主力製品が庶民の味方な価格帯でありつつも質のいい音を聴かせるエアボウが好きなのです。第一わたしがこのコラムを書き続ける動機は、すでにオーディオに対する投資を惜しまなくなっている経験のあるオーディオファンや自作スピーカー派のため、ではなく、これからオーディオに興味を持つ初心者のため、初心者に関心を示さない業界のためでもあります。

そこで、今回とりあげるYBAのプリメイン・アンプ:PASSION △Integre LDT。


画像:http://www.phlox-electronique.com/より引用

私がイメージするプリメインアンプの理想は、アンプに関して「セパレート・システムでなくても、これ1台あればいいかな」と思えるもの。したがって一般的にオーディオ界で常識とされる、『セパレート・システムこそ上位である』という考え(というより正確には判断基準)はわたしにはありません。わたしはでかい図体を持つパワーアンプを例えば2台も、部屋に置く気がしないのです。どうしても欲しくなったら、せめてTERA並に小さくないと、邪魔です。図体でかくて価格が高くて超ど級の音、なんて、いかにも平凡。そんなの、当たり前、なんです。

今私が使うTERAも、プリメイン・アンプです。このアンプは『セパレートは予算上組まないけど、でもいい音が聴きたい』という人にはとっておきな優れもの。
YBAのプリメインアンプを初めてアートクルーで見たとき、わたしは、TERAと共通の香りを感じました。

「そこのでかいセパレートアンプさん、私以上に聴き手に魅力をアピールできるんなら、やってごらんなさい」

入手しづらい高級・どでかセパレートアンプと、入手しやすい小さな高音質・高性能プリメインアンプ。
オーディオがこの先も普及、発展し続けるためにはどちらが重要か、言うだけやぼでしょう。どちらも、なんですが、より多く“必要とされる”のは、圧倒的に、後者でなくてはなりません。もしそうした考えが業界に欠けていると(仮定)したら、業界は本気でオーディオの普及を欲していない、ということになります。つまり一部の特殊な人たちの方しか向いてないことになります。そうした感性では、TERAや、このYBAのようなアンプを生み出すことはできません。

存在価値はこのくらいにして、問題はこのアンプの音です。

@YBA:PASSION △Integre LDT×KEF:Model203(アートクルーにて)

高域がきれいに抜けるスピーカーだけに、このアンプの高域の特徴=絹ごし豆腐のような音がよく出ている印象でした。加えて、このスピーカーで印象的だった中域の独特な充実感が、まるごとYBAの音に変わった印象。ひたすら、音場豊かなさわやか路線。ある種のリアリズムすら連想させるKEFの音を気に入って購入した人は、この音色の変化にはかなり驚くのでは?ユニットに対するアンプの駆動力も、かなり余裕が感じられます。
この組合わせは、YBAの音を聴くためのもの。そう感じました。

@YBA:PASSION △Integre LDT×真正・村正(自宅にて)

やっと、なんですが、村正のアートクルーでの試聴に一足違いで居合わせそこなった管理人さんと、自宅にて、村正の試聴ができました。今にして思えばこれは幸運で、YBAのアンプもついでに試聴することができました。
ちなみにCDプレイヤーはティアックのVRDS50。
実はこれまで、村正はTERAしか知りませんでした。ですから今回初めてTERA以外のアンプと組んだ場合の状態を確認することができました。これによって、村正の実力(可能性)を判断できるし、コスト・パフォーマンスが特徴のTERAがどれだけハイエンド機に迫れるか、要するに、この製作記の中で最もわかりづらかった肝心なことが、ようやく書けることになりました。

まずYBAですが、B&W以上にモニタータイプで敏感な反応力を持つ村正に対して、実に快適なドライブを魅せます。これなら、対応できるスピーカーの幅は広そうです。
主にクラシックでテストしましたが、交響曲のスケール感の表現が、なかなか快適。迫力や体力で威圧するスケールを感じさせるのではなく、場の空気の心地よい揺らぎによって感じるスケール感。音場の広がりは、かなりいけてます。いかにもオーケストラらしい雰囲気を漂わせます。
再生レンジは必要にして充分、という感じ。欲張った印象はなく、といって聴く人にストレスを与えるようなことはしません。
音色は、圧倒的なさわやか系。楽器本来の音を想像した場合と比較すると、明らかにYBAの感性が乗った音色です。いわゆる、モニター的ではない、オーディオ的な快適さを追求した音。日本人の好きな“原音再生”という言葉を鼻で笑っています。
こう書くと誤解されそうなので詳しく書きますが、村正は楽器の音についてはかなり正確に描き分ける性能があります。それは私が自ら望んで得た性能です。もしアンプが妙な癖を持っていたら、それも正確に反映するはずです。
でも実際に感じたYBA固有の音色とは、オーケストラを自分勝手な色に染めるというより、クラシック音楽を聴く快感を損なわずに、そこにほんの数滴、YBAのエッセンスを加えたもの。そのエッセンスの根本にあるのは、

『音楽って、楽しい。気持ちいい。すべての音は、生きている。その鮮度をそのまま家庭に届けたい』

というもの。「どうだ、これがハイエンドの音だ、まいったか」という傲慢さが、かけらもありません。
聴く側は常に、この“微妙な快感”の波に揺さぶられることになります。ちょうど、凪ぎの時、小さめのヨットのへりで居眠りをしてしまうような、微妙な揺らぎ。丘に上がっても、まだ自分が揺れているような錯覚さえ、感じるでしょう。そしてまたすぐ、その揺らぎを欲してしまうのです。でもヨットにしかもべた凪ぎの快晴の時に乗ったことのない人に、この快感は伝わらない。豪華クルーザー客船の方が高級だから、ヨットよりすごいんだ、そう本気で信じている人は、わざわざこのアンプを聴かなくていい。というより、このアンプを単なる“金満日本人的”道楽で買って欲しくない。
これはまさに禁断の・・・
これは、断じて、アメリカ人の感性でもないし、まして日本人のそれでもない。

もしあらゆるオーディオ機器に手を出してきたオーディオファンが、死ぬ間際になって最後にそばに置いて聴きたがる音とは?

そんな究極の質問をしたとき、世界中のオーディオファンはなんと答えるでしょう。そこで名を挙げられる資格を有する製品は、実はかなり少ない、と私は思います。(たとえば私の場合はTERAであり、村正でしょう)
このYBAの小さなプリメインアンプこそは、その最有力候補ではないか。それが、わたしの感想であり、評価です。
このアンプ、あまり日本でメジャーになって欲しくはありませんね。少なくとも、アートクルーで流行る、くらいでいい。正直、独り占めしてほくそえんでいたい、そんなアンプです。逆にこのアンプがもし日本中で評判になり入荷待ちになるくらいだったら、日本のオーディオファンとショップ、さすが、です。ということはその場合、問題は日本のメーカーということに・・・

どうせラックスマンとアキュフェーズの国内での牙城は容易に崩れないんでしょうけど(信者が多そう)、もしこれが日本の弱小メーカーが出したアンプだったら?・・・
鼻柱が強くて高い大メーカーに必要なのは、そんな想像力でしょうし、日本の中小メーカーや技術者は、このアンプに大いにカツモクすべきでしょう。(続)