「村正試作1号」製作記
… by K.I.
これまでのまとめ編〜T スピーカーをつくる ●2
文系素人にマルチウェイ・スピーカーの自作は可能か
@ユニットをつなぐ
わたしはいまどきのできのいい既製品のスピーカーの音さえ知らずに、いきなりユニットを買い、3ウェイ・スピーカーを組もうとしました。これは、無茶なことでしょうか?
この際はっきり言っておきます。私は、算数が心の底から大嫌いです。何よりも。そして、算数の勉強をしなかったことに、何の後悔もしていません。しかし、ユニットの数が二つ以上あれば、いやでも、クロスオーバー・周波数について考えなくてはなりません。その時、経験のない素人に、計算式は必要です。
例えば2ウェイであれば、低域を受け持つウーファーの高域と、高域を受け持つツイーターの低域を一定の周波数のところを境に減衰させないと(カットオフ周波数)、音がうまくつながりません。それぞれが出す音が互いにかぶさり過ぎてしまうからです。再生・表現できる音の幅や伸び、可能性が広がり、好みのバランスを追求できるかわりに、このつなぎ目が原因で不自然にバランスを崩す可能性が生まれる、それが、マルチウェイ・スピーカーの長所と短所です。
つなぎ目、減衰させ始める周波数を何ヘルツに設定するか。設定する周波数の値を出す時に用いる計算式=公式が実はあるので、設計上、とても便利です。これなら、出来不出来はともかく、文系素人にもなんとか設計できます。
ところで、ほかのユニットと音をつなげるためにコイルやコンデンサー=抵抗を使用しますが、メーカーのマニュアルには、マルチウェイ・スピーカーの事例としてメーカー推奨のクロスオーバー周波数値に応じたコンデンサーが使用するユニットとともに表示されています。(フォステクスの場合)
もしこのマニュアルがなくても、公式を利用して、私が採用した簡素なつなぎ方(6dB/octのゆるやかな減衰率でつなぐ)で使用する抵抗の値(初期設定値)を決めるのは簡単だと思います。
それより大事なのは、基準に決めた値と違う値の抵抗をいくつも買って用意し、基準に対する音の変化を見極めて、より快適なバランスを探すことでしょう。経験のない文系素人が計算と勘だけで答えをみつけられるはずはありません。でもこれさえやれば、なんとかなるんじゃないでしょうか。まして一回目から成功する必要などないし。
A箱をつくる
最も重要なことは、しっかり木工作業をするための作業台があるか、ないか。
あれば、工具を買って微調整することも可能でしょうが、もしなければ、ちょっとしたことでいちいち不自由するはめになります。ホームセンターで板をカットしてもらったとしても、板の圧着作業や微調整自体が、意外と作業台なしでは大変です(私みたいに作業台なしでもできないことはありませんけど)。
それと、釘や木ネジを使う場合、私が使用したような、各層によって堅さが極端に違う合板は、絶対に推薦しません。というより、木ネジ使用の前提ではこのような合板は禁止です。まともには組めないからです。
箱の大きさについては、メーカーの推奨値やマニュアルに縛られる必要はないと思います。やってみなければ、わからない。
それと、バスレフポートの計算も、参考にできる公式があるので、簡単。これも、大切なのは計算ではなく、実際にいろいろ試すことです。そのためにも、試作段階は安い木材を使用した方が、あとで充分おつりがきます。
自分で設計し、組み立てた箱から音が鳴るのは、快感です。
B結線する
スピーカーの結線に関するハンダ処理など、素人工作で充分です。もし失敗しても、あらかじめ失敗することを計算に入れておけば、やり直しできるので、問題ありません。
ハンダに関しては、オーディオ用にいろいろな種類のものが出ているので、ホームセンターにある一般用の安いものと、オーディオ用のグレードの高いものとを比較してみると、ハンダによる影響がどの程度のものか、わかります。こういうとこで、実験の手間や出費をケチってはいけません。
いやー、ちっとも面白くありませんね、このまとめシリーズは。
この村正シリーズ、はじめにお断りしたように、もともと、自作をする人のための参考事例を提供するつもりで書いているのではありません。わたしなりにシステムを改善してきた過程で、いろいろと考えたり感じたことがあったので、単に“オーディオべったり、どっぷり”的なスタンスではなく、もう少しオーディオ界というものを突き放したスタンスからわたし(初心者)の目に見えたことなどを書いてみたら、面白いかな、と思ってはじめたんです。
たとえば、スポーツに日ごろ関係している生活を送っていて、自分のことを「スポーツ関係者である」と自覚している人には、外から客観的に見たスポーツ界のおかしなところ、違和感は、よくわかりません。大抵の“関係者”は、そうした外からの意見を、敵対心を持って、否定的にとらえるでしょう。専門的立場からの理屈は、いくらでもつけられる。しかし、人間は、“環境”や“立場”に一番弱い。
当然、『スピーカーの自作』についても、いくつか感じたことがありました。
@応用を発展させるための原理原則、基礎知識、考え方の普及より、マニュアルが大切か?
痛感したのは、ひとことでいえば、「初歩的な基準」さえわかっていれば(情報があれば)、スピーカーの自作は非常に安上がりでお手軽である、ということ。工作が面倒なら、板をホームセンターなどでカットしてもらえばいい。そのことと、マルチウェイのバランスを良くするための作業とは、分けて考えるべきです。どういうことかというと、
という事実が、『スピーカーの自作』の世界では、一般的ではないのでは? という疑問です。
わたしの勘が正しければ、の話ですが、日本で長岡鉄男氏の設計によるスピーカーを自作してオーディオを聴いている人の割合は、全スピーカー自作者の中で、相当な数字になるはずです。
あえて挑発的な言い方をしますが、そのうち、ユニットがひとつで基本的には抵抗の組み合わせを考えずにすむ「フルレンジ」を採用している人の割合は、いくらでしょう。長岡氏の2ウェイ、3ウェイの設計とは違うユニット構成、ネットワーク構成で作った人の割合は、いくらでしょう。長岡氏の設計とは違う設計で、ゼロからスピーカーを作ろうかと思える人の割合は、いくらでしょう。
そもそも、長岡氏が発したかったメッセージとは、何なのでしょうか。
「私の言うとおりにすれば間違いない、私の設計通りに作って欲しい。」?
逆だと思います。
わたしがスピーカーを作ろうかと思ったときに、まずはじめに欲したのは、基礎知識です。ノウハウではありません。この世界が、一体どういう原理で成り立っているのか。でもわたしは(オーディオショップという要素を除いて)、長岡氏の著書に頼ることしかできませんでした。そしてそこには、多くの設計事例が・・・
もし、それを読む人が、「ああ、長岡氏は私たちのために、事例をたくさん教えてくれているんだな」と、勘違いしたら、どうなるでしょう?
おかしな現象です。自作する人のためにユニットを提供する側から、『スピーカーを作るためのオーディオ学、音響学の基本』の類の積極的なメッセージが、見えてこない。全く。少なくとも、初心者を“発掘”し、この世界に導こうとする様子は、ない。肝心なその部分を、長岡氏やオーディオ・ジャーナリズムにおんぶに抱っこ。優先順位が、完全に、逆なんです。
それでなくても日本人は本来の目的よりもマニュアルを大事にするのに、これでは・・・。
お話になりません。つまり、“モノ”は製造しているのに、なんのためにそれを生み出しているのか、自らの“哲学”がない。長岡氏亡きいま、いずれは、衰退していくでしょう。
例えをひとつ、提示してみましょう。
ある人(Aさん)が、生まれて初めて、あるスポーツを体験しようとしています。その人は、専門家すなわちコーチについて教わることにしました。
コーチはまず、必要な動作を分解して、手本を示し、その通りに動け、と命じました。立派なフォームです。
命令なので、Aさんは、言われた通りにしてみました。当然、結果がいいか悪いか、自分ではわかりません。コーチの顔色を窺います。
コーチ:「あなたの今の動きで、この部分が間違っている、できていない。もっと、このように動きなさい」
Aさんは、いわれたことを自分なりに「こうすればいいのかな」と頭の中で勝手にイメージして、再び動作を見てもらいました。今度はうまくいったようで、コーチは「よくできました」とAさんを褒めました。
さてここで、質問です。
答え。
では、質問を変えます。
答え。
A単体で発売されているユニットについての情報が、あまりに少ない。
現状では、スピーカーを自作しようかと思っている人たちの存在は、ほぼ無視されているといっていいでしょう。メーカーが公表している「ユニットの規格」がカタログに載っていればいい、という問題ではないでしょう。(続)
|
|
|