「村正試作1号」製作記
… by K.I.

これまでのまとめ編〜T スピーカーをつくる ●1

もし、わたしにもうすこし金銭的な余裕があって既製品のスピーカーを買っていたら、今頃どうしていただろうか、と考えてみます。たぶん、口径の大きい、30cmのウーファー搭載のマルチウェイにはこだわったはずですけど、果たして市場で、大口径の迫力とノーマルな音楽性とを兼ね備えた大きすぎないスピーカーを探すことができたか。たぶん、相当苦労したはずです。B&Wの802やタンノイの大型はサイズでだめだったでしょう。JBLの中型は音色で悩んだでしょう。いくら考えても、答えが見えません。なぜなら、そこにアートクルーが、ないからです。
もし運良く、スピーカー探しに迷って、その結果アンプも現状のままでいたら、そのうちアートクルーが開店して、わたしは雑誌でエアボウを知り、アートクルーを訪ね、TERAを基準に、アートクルーの音をベースにしてスピーカーを探していたでしょう。そうすると、可能性が高いのは、順に、B&W803、タンノイDIMENSION10、JBL4344M、あたりでしょうか。

ただ、なんとなく、ピンときません。やっぱり、『真正』として脱皮してしまった現在の(平成15年2月)村正の代わりを探すのは、難しい(つい3日前にもまた脱皮してしまったので)。上の3機種の中では、タンノイDIMENSION10を中核に据えてシステムを組んだときの可能性が面白そうだと思います。

わたしがスピーカーを作ることになったきっかけは、雑誌で読んだ記事を頼りに、手持ちのフルレンジ・スピーカー(ひとつのユニットだけで再生するタイプ)にツイーターを足してみようか、と思いついたことでした。そしてそれはすぐに実行されて、意外な音と出会いました。このときの新しい音との出会いがなかったら、いまごろ村正も生まれてはいなかったでしょう。
一個1万5千円程度のツイーター(フォステクス・T90A)から出てきたのは、それまで聴いたことのない、新鮮な音でした。市場に出回っているスピーカーのツイーターの音に、実を言うとわたしはなかなか満足できなかったのですが、これはきちんと調整すれば、自分の好みに近い音になるかもしれない、と感じたのです。安いツイーターでこれなら、中域、低域のユニットも、意外にうまく組めば、好みのバランスで音楽を安上がりに楽しめるかもしれない。そう思って、再生帯域が広そうな3ウェイをつくることにしました。


画像:http://www.fostex.co.jp/より引用

結果は、音質を追求するほどに、バランスは自然なものに近づき、望んだ以上の成果が得られました。これははっきりいってアートクルーの力があっての結果なので、ショップに感謝するしかないのですが、もしここまでうまくいかなくても、わたしは充分、スピーカーを作ろうとしたことに関しては、満足していたはずです。
なぜなら、ユニットが二つ以上で構成されるスピーカーを組んで、配線しようとし、また、そのユニットを収めるための箱を設計しようと考え始めたその瞬間から、オーディオを理解するための一番の近道を、すでに歩き始めていたからです。結果が成功するかどうか、結果を人からどう評価されるかは、たいして問題ではありません。

はじめはどうにもならないほどでたらめなバランスだった3ウェイを、少しずつ、まっとうなバランスに仕上げる過程で思ったことがいくつかあります。

  1. 自分で調整した結果が、すぐ音の変化になって現れる。これは、とても楽しい。

    オーディオをいじっていると、とかく、「良くなったか、悪くなったか」にばかり目がいきがちだと思いますが、そう考えず、なぜそうなったのか、という目で見れば、オーディオの世界はなかなか奥が深い。考えるべき要素が、多いからです。
     
  2. ドライバー、ホーンの設置・調整は、バッフルにネジで固定したらほとんどの作業が終わるコーンタイプのユニットに較べて、難しさは数倍。でも、面白さは、数十倍以上。

    こればかりは、言葉で説明するのは不可能です。村正の調整のほとんどは、実際はこの部分に関して費やされています。
     
  3. オーディオの気持ちよさとは何か、マルチウェイの自作では、それが身をもってわかる。

    ツイーターの再生帯域や音圧を、少しいじっただけで、全体が恐ろしく変わる。あるいは、中域を調整したら、全体に影響が出る。ウーファーに関していじったのに、ツイーターの領域の音まで激変する。ときには勘違いしながら、「ああ、これが気持ちいいということか」という音がいきなり出たりする。面白くないわけがありません。
     
  4. 自宅でもいい音で音楽を楽しみたい、と思ったとき、プロ・ショップの音はいい基準になる。

    基準がしっかりしていれば、応用はいくらでもききます。でも基準がなければ、見るべき方向さえ、初心者にはわかりません。
     
  5. 雑誌の評価はあくまでも参考。現実は、ショップで、自分で体感する。

    雑誌の評論家が、ショップよりもいい音でシステムを鳴らしているとは限りません。その逆はあるでしょうけど。ここは、まさにショップの腕のみせどころでしょう。肝心なのは、たまたまショップで出ている音が、調整中の音なのか、調整後の納得いく音なのか、聞いてみることでしょう。素人が「いいな」と感じても、「これ、まだ調整中だから」ということもよくあります。
     
  6. 製品に対する先入観は捨てる。

    実際に、わたしは、アートクルーのJBL・4344で、かなり気持ちいいバッハを聴いたことがあります。素人の先入観は、プロには通じないと考えるべきです。特に、アートクルーには。

5と6は自作には関係ない、と思われるかもしれませんが、とんでもない。わたしのような経験値の少ない初心者が、まっとうなショップ(の音)を知るということは、直接、自作のスピーカーにも反映されます。松岡式パーツによる村正のチューニングなどは、その好例です。(続)