村正試作1号」製作記
… by K.I.

システム構築編〜T ネットワーク改造 ●3

これまでの補足など

この製作記の目的は、ひとつの自作3ウェイスピーカーの製作に関する手順やノウハウなどをマニュアル的に提示しようとするものではありません。ですから、スピーカーの自作について興味がある方にとっては当然関心があることがらのいくつかが抜けています。
そこで、とりあえずネットワークの構成が決まったところまで話が進んだところで、村正の原型完成までの補足を、書き足すことにします。

☆ 箱の強度

まず板の厚さで、設計をはじめてすぐ悩みました。がしかし、こればかりはやってみないことには判断ができません。とりあえず、メーカーのカタログに書いてあった一般的な基準のとおりにしました。本来ならば、せめて二種類の厚さの同じ大きさの箱を用意して、適性を見たいところですけど。(だってメーカーはそれこそ何十種類もの型でテストできるわけですから)ただ、はじめから完璧を狙う必要は全くないと思います。失敗してわかることもオーディオには必ずあるからです。
箱内部の補強ですが、これは、長岡氏が、カットして余った板は補強として利用できる、と書いていたので、経済的なのでそうしました。あとから考えると、補強するにもいろいろやりかたがあります。好きにやったらいいでしょう。

☆ 箱内の吸音材

メーカーのスピーカー内部には意外と多くの吸音材が使われているようです。でも長岡氏はこれには否定的です。そこで、実際に、メーカーの推奨基準と同じくらいに入れてみて、その後量を減らして音を比較してみました。
これは予想していたよりも、現実に出てくる音が変わります。30cmウーファーを取り付けるために、正面に大きくあけた穴から顔を箱に突っ込み、声を出してみるとよくわかります。箱の中がいかに過酷なのか。
結局、音(音楽)は少々問題があっても生き生きしていた方がいいので、今ではほとんど使用していません。

☆ 箱の大きさ、辺の長さ

部屋の大きさに合わない大きすぎる箱を作ってもしようがありません。30cmのウーファーがたぶん限界です。メーカーの推奨値よりは小さくしました。ユニットの能力をそこそこ引き出すことができれば、それで充分でしょう。ただやはり本音を言えば、これも違う設計で同じ板厚の箱をいくつか用意して、テストできればいうことありませんけど。
私の場合、結果的には“音場空間、空気の表現”“迫力”“自然さ”“音楽性”を重視することになったので、部屋の大きさから箱の大きさを決めたことは正解でした。少し箱が小さくても、よく鳴るユニットだったことも幸いでした。今後はあとひとまわりだけ大きくしようかと考えています。

☆ アルニコのドライバーと普通のウーファー

ひょっとしたら、多くの人が、アルニコ使用のドライバに対して普通の紙のウーファーを組み合わせていることについて、「おかしい」と思うのかも知れません。メーカーのカタログを見ていて、私もそう考えたくらいですから。
結果ですが、ただの紙のウーファーでも、システム全体のチューニングとセッティングによって、ユニットの実力の90%くらい発揮してくれれば、充分音楽を楽しめます(いまはまだ100%ではないので)。
村正の中〜高域はかなり高速なのですが、しっかりついてきてます。(ただ、基本は、ユニットの素性=規格に注意して組み合わせを考えるということでしょう)

☆ マニュアルの存在意義

最も常識的なのは、既製のネットワークを買ったり、設計図通りに組むことでしょうか。いややはり、それは違います。
自分で計算してみて、これはどうかなと思ったらそれでやってみる。でないと、メーカーやプロのマニュアル通りにまねして完成度の高い音が初めから出たとしても、それで自分に自作に関して何が身に付くかといえば、ゼロです。ということは、理解できない、ということです。結局、マニュアルを作った人の好みに委ねて音楽を聴いていることになってしまいます。

☆私が自作に惹かれた本当の理由

それは、既製品のスピーカーで、理想に近いと感じたJBLのK2は、欲しくても部屋に入らない。かといってそれ以外のものを買うと、結局そのスピーカーの作者の好みで音楽を聴くしかない。何台もスピーカを買い込む余裕はない。それならいっそ、少々出来が悪くても、それが気に入らなければ作りなおしてでも、自分の好みを反映した自作のスピーカーで、「うーん、K2ではこの味は出せないな〜」などと勝手に悦に入りながら音楽を聴いた方が、幸せなのではないだろうか。
そんなふうに考えたからです。

実際作ってみると、自作したものに対する愛着は、他の機器の比ではなく、思い入れが深い分だけ、セッティングやチューニング、音質改善に自然に関心が向くようになり、自己満足の度合いも深まるようです。
結局、私は好きな音楽の快楽に浸りたいために、あるときはコンサートに行く穴埋めに、またあるときは過去や現在の優れた演奏を聴き、出会うために、オーディオを手段として利用しているだけなのです。

ただ、縁があってアートクルーというプロ意識も能力も高い(そう言っては失礼でしょうけど)ショップと出会うことができたので、その力を村正に足してやれば、驚くほど気持ちいい音楽を聴くことができる。すなわち、私の快楽は深まり、いうことなし、というわけです。
私にとってアートクルーの力というのは、より深い快楽を味わう上で、自分の判断がうっかり錯覚を起して、“損”をすることがないように、また、“自分の判断がすべて正しい”と思い込んで視野狭窄になったりしないように、そのために、必要なものです。
逆に、「自分よりもメーカーの価値、判断、音が、すべて正しい」と考えるのならば、スピーカーなど自作する必要はないでしょうし、また、自作スピーカーになにかの欠点があったとしても、それを“間違いである”と考える必要も、ないでしょう。 (続)